店内の中心に設置されたこのドライエージング冷蔵庫は、完全オリジナルの特別仕様で、今のお店の前身トロワピエロ時代の5年間に試行錯誤の研究の末にあみ出した熟成庫です。伝統的なジビエ料理というのは、捕獲後すぐに調理するのではなくfaisandage(フザンダージュ)といって、数日間かけて熟成させます。熟成させることによって、野生肉の持つ独特の臭みを消し、逆に自然な肉の芳香を醸し出させ、そして水分を抜くことによって肉質を柔らかくするのです。
この熟成工程を普通の冷蔵庫で行っても、微妙な湿度や温度を調節することが出来ず、数日間のうちに腐り始めてしまいます。研究をする過程で、何頭の鹿や熊を駄目にしたかわかりません。
でもその末に出来上がったこの低温無菌熟成庫の機能は、信じられないほど高いクオリティの熟成肉を作ることを可能にしました。
この熟成庫は見てわかるように、4つに仕切られていますが、お肉の種類ごとに分けられているのではありません。庫内の機能が段階ごとに分けられています。まず新鮮なお肉は一番左の熟成庫に入り、低めの湿度、温度そして強めの送風により、初期段階の熟成がなされます。そしてその後、大きさ、肉質に応じて、右側の熟成庫に移して、湿度と温度を調節しながら、ゆっくりと二週間から五週間の時間をかけて、熟成させていきます。
熟成されたお肉は、時間をかけて余分な水分が抜いたことにより、より一層、繊維が柔らかくなり、タンパク質の中の旨み成分、アミノ酸がたっぷり増加し、新鮮なお肉では決して味わえない甘みのある味に変化していきます。
普通は数日で腐り始める蝦夷シカですが、2週間の間ゆっくり熟成庫で寝かされたお肉はルビー色で香りはほとんど無臭です。食べごろで、食感は信じられない位、柔らかいです。
フランスではとても人気のあるジビエのひとつで、Faisanフザンとよびます。熟成という意味のFaisandageはこのキジの名前が由来しているくらいなので、熟成に適したお肉で、二段階で熟成させています。絞めた直後に数日間、生産者の方が熟成させ、そしてこの熟成庫に入って10日ほど寝かせます。肉身は全く臭みもない、なんとも言えない柔らかい味に仕上がっています。
熟成の定番、牛肉ですが、ふつうの熟成ではこんなにきれいな赤身にはなりません。
無菌低温で、たっぷり時間をかける熟成なので、赤みがきれいに残ったままです。まだ1~2週間くらいは熟成できますが、脂身の甘みがさらに増していきます。
ジビエの王様、ヒグマも低温熟成させています。というか、熟成しないクマのお肉はクセが強いので、ふつうは美味しく食べることが難しいですが、時間をたっぷりかけて、落ち着かせると本当に美味しいお肉に変わっていきます。そしてこのお肉には不思議な秘密が隠されています。お肉に漢方薬の味はしませんが、この熊肉は即効性のある漢方薬で、このお肉を食べると、血行が高まり、体がポカポカしてきます。
一般的には熟成肉とは牛肉のことなのですが、うちではもちろん黒豚も熟成させています。普通の豚では熟成させることは難しいのですが、健全な餌を食べて育った豚は、むしろ牛肉より熟成に向いていると思われるくらい、柔らかく仕上がり、脂身はとても上品な甘みになっていきます。
左から猪豚のサラミ、薔薇の実がついた生ハム、猪豚のクラテッロ(生ハム)、猪のクラテッロ(生ハム)
ジビエの生ハムやサラミは作るのがとても難しいのですが、修行の甲斐があって、本場ヨーロッパに負けない位の仕上がりになってきました。